特集2 厚労省「令和2年衛生行政報告例」から読む治療院の未来

あマ指施術所減少、鍼・灸、柔整施術所増加、療養費収入は低下
厚生労働省は今年1月に「令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)結果」を公表した。報告例には年報と隔年報がある。年報は毎年公表されるもので精神保健福祉関係の各種届出数や人員数と栄養、食品衛生、薬事関係などの施設数などが掲載。隔年報は保健師、看護師、歯科衛生士などとともに「あはき師」「柔道整復師」の国家資格者の就業数や施術所数などが記載されている。データは保健所の各種届出書から導き出した数で、国家資格は持っているが就業していない人はカウントされておらず現実に即している。隔年報は今まで7月ごろに公表されてきたが、新型コロナ感染症の影響で、今回は約半年間遅れの2022(令和4)年1月24日に公表された。この特集では隔年報の統計の中から柔道整復師を中心に過去と現状を見て、未来を読み解いてみよう。

就業国家資格者数の年次推移
あマ指師減少、はり師、きゅう師、柔道整復師は増加

あん摩マッサージ指圧師(あマ指師)の就業者数は2020(令和2)年の末で11万8103人と、前回公表の18年より813人減少した。この10年間で減少したのは初めてだ。はり師、きゅう師の就業者数はともに前回(2018年)比で約5000人の増加。柔道整復師(柔整師)の就業者数は7万5786人だった。柔整師の就業者数は2010年からの10年間で約2万5000人増加している。2012年までは2年間ごとに約8100人近く増加したものの、12年以降は増加の伸び率が低下。特に2015年~18年の4年間の増加人数は5000人台を連続して割り込んだ。2020年は前回比2769人の増加で、この10年間で増加幅は最低となった。

国家資格者施術所数
各施術所とも過去10年間で最低の伸び、頭打ち状態

2020(令和2)年末の「あマ指を行う施術所数」は1万8342カ所だった。この10年間で前回比増加しているのは2010年と2016年に2回だけになっている。「はり、きゅうを行う施術所数」は20年12月末日で3万2103カ所あり、前回比1653カ所増だった。しかし、この10年間で見ると2年ごとに2000カ所以上の増加傾向だったのが、20年に歯止めがかかったようだ。「柔整師の施術所(接骨院)数」は今回の公表では5万364カ所だった。2010年からの10年間で約1万2400カ所増加しているが、この10年間を2年ごとに見ると接骨院の増加数は12年をピークで頭打ちだ。とはいえ2018年までは2年ごとに2000カ所から4000カ所程度施術所は増加している。ところが今回は2年間で287カ所の増加しかなかった。業界人でなくても驚くような数だ。前回までの施術所数の伸びから見て「このままの状態で推移すると4年後には接骨院がコンビニエンスストアの店舗数(2020年末で5万5924軒)と肩を並べる可能性がある」という話が急激にしぼんでしまったようだ。

柔整師数と接骨院数から見た現状と将来
1院当たりの柔道整復師数

2008年は1接骨院当たりの柔整師数は1.26人だったが、表3のように10年以降は徐々に増え今回の調査では1.50人と増加している。2年前までは柔整師不足だとの声が聞かれていたが、新型コロナ感染症の発生以来あまり聞かれなくなった。要因の一つとしてはコロナ禍での患者減少などにより接骨院の淘汰が始まって、廃業・閉院の増加で勤務する柔整師が増加したことがある。さらに2018(平成30)年度から、柔道整復療養費の受領委任を取り扱う施術管理者の要件が改定されたことも大きい。新たに施術管理者になる場合に実務経験が要件となった。以前は免許取得後すぐに開業できていたが、この改定で実務経験しなければ開業できず接骨院に数年勤務する必要があり、接骨院1院当たりの柔整師数を上昇させたと想像できる。また、独立開業して苦労するよりも、サラリーマン的なスタッフとして生活できれば良いと考える柔整師が増えているとも聞く。給与もそれなりで賞与もあり、社会保険などを完備している大手接骨院での仕事を定年まで勤め上げる人も増えた。他方、介護施設で機能訓練指導員として新たな道へ進む柔整師も多い。個人規模の接骨院は新たなスタッフを雇用したくても雇用できず、複数の店舗を持つ大手接骨院のスタッフ数は増え続ける。将来ますます大規模接骨院に集約される可能性が考えられる。

柔整療養費推移と接骨院1院、柔整師一人当たりの療養費収入

接骨院1院当たりの療養費収入、柔整師一人当たりの療養費収入を調べた(表4)。単純に柔整療養費の総額を接骨院数や柔整師数で割ったものだが、過去と現状、そして未来が見えてくる。柔整療養費は2010(平成22)年以降現在まで下降傾向だ。10年は接骨院1院当たりの療養費収入が1071万円だったが毎年減少を続け、編集部の予測値では、20年は618万円となっている。この10年間で約4割減になる。また、柔整師一人当たりの療養費収入は411万円と10年間でほぼ半減している。

柔整療養費は2019年の厚労省の推定値でも対前年比で低下している。20年以降も保険者の財政状況、社会保障費増加などやコロナ禍という要因もあり、低下傾向が続くものと考えられる。

なお、20年の柔整療養費は厚労省などから今年3月現在、公表されていないため過去のデータなどから推計したものであるのでご了承願いたい。

◇   ◇   ◇

 昨年暮れ一時感染者数が低下した新型コロナウイルス感染症だったが、2022年の声を聞くと同時にオミクロン株による感染者数が増加し、2月5日には全国で10万人を超えた。この株は感染力が高いため、患者の治療控え数が再度増加した。そんな中、接骨院は新型コロナウイルスの対策をはじめ経費の削減、経営の見直し、スタッフの活用方法の研究、物販の開始、保険治療から自費治療導入へと収益構造の見直しを進めているようだ。

一方で、厚労省は柔整師を従来の外傷専門家としての位置づけに戻そうとしているかのように見える。これは前回の療養費改定の内容、改定額の割り振りからも読める。今年の改定も同じ傾向が見られるだろう。

売上げ的に見ると療養費収入は減少を続けているが、この傾向は多数の店舗を持つ大手接骨院に有利となる。編集部の予測値では柔整師1人当たりの1年間の療養費収入が2020年の411万円となっている。大手接骨院で10人の柔整師がいると療養費の患者分だけで4110万円、30人柔整師がいると1・2億円の年間収入がある。ここから経費を引いてもそれなりに経営はできる。一方個人の接骨院は、411万円(年間)から家賃や水道光熱費など経費を差し引いた分が柔整師の取り分となる。収入を増やそうとすると療養費患者や自費の患者を増やすか経費の削減をする必要がある。そのためには治療技術の強化はもちろんのこと、小手先だけではなく大手接骨院ではできない治療内容など大胆な変革が、個人接骨院に求められている。

〝なんちゃって接客〟〝なんちゃって治療〟を行っている接骨院は新型コロナで治療を控えている患者から見放され患者は戻らない。今はコロナ禍での接骨院の淘汰が行われている真っ最中の考えるべきだろう。

厚労省が審議会などで示す見解では、柔整師・あはき師の国家資格を将来的にも残すように動いている。自分の治療院を再度見直し、治療技術、接客方法などの工夫、改革を行い続けることが肝要だ。淘汰されず生き残った後は治療院数も減り、今よりずっと安定した業界になるものと考えられる。そこまで生き残るすべを追求する必要がある。

都道府県別接骨院数および前回からの増減

 今回のデータは前回と比べると大きな変化が読み取れる。全国的には接骨院は前回に比べて287カ所増加している一方で、減少している都県が16ある。接骨院が多いのは例年のように大阪府で6982カ所ある。2番目はこれも例年通り東京都で6161カ所あるがなんと前回比36カ所減少している。前回比で1番減少数が目立ったのは茨城県で、この2年間で119カ所の接骨院がなくなっている。

都道府県別就業あマ指師の晴眼者と視覚障害者

 平成医療学園グループは、晴眼者のあん摩マッサージ指圧師の養成課程の新設が厚労大臣と文科大臣に認可されなかったことを不服として、2016年(平成28年)に認定処分取消訴訟を3地区の地方裁判所に提訴。20年2月に大阪地裁を筆頭に「晴眼者のあマ指師の養成課程の新設を制限することを定めたあん摩師等法は憲法22条に反しない」とした。他の2地裁も大阪地裁と同様の判決。平成医療学園グループはいずれの控訴審においても控訴が棄却されたため上告。今年2月7日最高裁判所は下級審と同様に判示し、すべての上告が棄却された。業界では注目された裁判だった。あマ指師の晴眼者と視覚障害者の数を紹介する。

 

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