新連載 「鍼灸」はなぜ「効果」があるのか?第一回 顔面神経麻痺の鍼灸治療

文・関 忠雄 / アルゼンチン共和国F・バレイラ在住
1949年長野県生まれ。中央大学法学部卒業後、早稲田鍼灸専門学校に入学。卒業後、倉島宗二師に就いて臨床鍼灸学を研修し、78年関鍼灸治療室を開設。その後、新潟大学医学部第一解剖学教室で末梢神経(自律神経:迷走神経)解剖研修、動物病院での獣医学研修を経て06年れもん鍼灸接骨院院長となりました。そして13年からアルゼンチンに住み、アルゼンチンで鍼灸院を開院しています。
著作として「響く鍼、響かない鍼~坐骨神経痛の鍼灸治療について」「パーキンソン症候の一症例」「仕掛人藤枝梅安の臨床ノート」「鍼灸の応用分野の一考察~馬の鍼について」などがあります。

顔面神経麻痺の原因

顔面神経麻痺には末消神経によるものと中枢神経によるものがある。鍼灸は末消神経が原因の顔面神経麻痺が治療対象で、中枢神経が原因の顔面神経麻痺は治すことができない。では中枢神経が原因の神経麻痺と末消神経が原因の顔面神経麻痺をどのように見分けるのか?
まず患者に上方を見させる。中枢神経性の場合は、前額部および上眼瞼の筋肉が障害されないので上方を見させると両側に顔のしわを形成することが可能である。つまり、患者に前を向いて上を見させて「しわ」ができれば鍼灸では治せない。このような場合、他へ治療に行くことを勧めることが大切である。治らないと言ってはならない。患者の希望を打ち砕くことになるからである。私たちの鍼灸は万全ではないが、同時に他の人の希望を壊さぬよう万全でなくてはならない。

顔面神経麻痺の鍼灸治療

鍼灸治療は末梢神経の麻痺で神経の変性の1度および2度の限られた場合である。中枢神経性の麻痺の場合と違って末梢神経の麻痺では麻痺の状態がどの程度なのかは治療を始める段階では不明な場合が多い。病歴をとる際に、麻痺が起こったときの状況と、その後の経過をよく聞く必要がある。ただし、多くの患者の話は曖昧で正確に覚えていない場合が多いので気をつけなければならない。そのような状況で治療を始めるのであるから、神経の変性の度合いを見きわめられないことが多い。
顔面神経麻痺は他の人に直接見える部分であり患者の苦痛は大きい。どこまで鍼灸治療が可能なのかを常に冷静に考え、患者には鍼灸治療の効果とどこまで効力があるのかを話しながら治療をする必要がある。

顔面神経麻痺の症例

末梢神経の中でも、知覚神経や自律神経の異常(痛みやしびれ)はその個人には耐えられない苦痛でも他の人には実感できない。それに比べて運動神経の異常である顔面マヒはその異常が他の人にすぐ分かるので、その症例を記しておきたい。

症例
年齢: 62歳
病歴:
①1週間前から頭痛がして左頚部が重い感じがしたが、7月31日の5時頃に水を飲もうとして鏡を見たら顔が麻痺していた。
②医師に診てもらったところ、1週間様子を見るとして目が乾かないように目薬をもらった。キネシオロゴ(日本でいえば接骨院か?)でマッサージをしている。
施術および経過:
①初診:8月8日
②まず患者に前方を見てもらい目を上にあげてもらった。詳細に調べたが「しわ」ができないので末梢性の顔面神経麻痺と考え、また発症から1週間しか経っていないので鍼灸治療を引き受けた。
③治療方法は写真①を参照
④経過:8月8、10、13、18、21、24、28、31日、9月5、10、17、24日、10月1、7、15、22日と計16回同様に治療した。8月21日(治療を始めてから5回目)から麻痺は軽減し始め医者へ行ったら随分よくなったといわれた。写真②は8月8日の写真、写真③は8月21日の写真である。

写真①:治療方法

写真②:8月8日時点

写真③:8月21日時点

※記事の詳細は、ひーりんぐマガジン57号(秋号)をご覧ください。

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